それは突然の出来事でした。
Mさん、はじめての吊り込みに意気込みも充分で、快調に踵まわりをまとめあげ、その勢いのまま爪先を吊り込んでいこうとした矢先のこと。IMG_2077

「ふうう…ふん!」と、ワニ(吊り込み作業に使うペンチが変形したような道具)でグイングインひっぱりあげ、「お!いいぞ!その調子!」という私の掛け声を受けて今まさに靴の爪先の最先端を吊り込まんと「おいや!」気合いを入れたその刹那、「ばり。」という乾いた音とともにワニの先端が革を貫き、勢いあまって「ばりりりびりりー!」と革が裂けていくではありませんか。Mさん、革を突き破ったワニの先端をしばし無言で眺めた後、窓外の景色を遠くに見やり、「ああ、ここまでの道のり…革を裁断したり、慣れない色んな道具を使ってあれやこれやとやったあの時間…、そうよ、あたし、ミシンだって必死に頑張ったわ…!ああ、でももうこれで何もかも終わりなのね…そう、お・わ・り…ジ・エンド。フフ…終わったのよ、私は…。なんてこった…」といった思いを走馬灯のように巡らせたことでしょう。

実は吊り込み時に革が裂けるのはたまにあることです。ほとんどの場合、修復可能です。
吊り込む時にワニでつかんでいる所は吊り込みしろという靴の底面に回り込む範囲なので、破れていても実用に問題はありません。もちろん見た目にもまったく影響なしです。
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今回は派手に裂けたので補強用テープで裏貼りして、さらに傷口を縫うように補修しました。これで、また吊り込みOKです。Mさん、心配ご無用、これからも思い切って吊り込みましょう!