
これほど人々の理想をそのままに表現した街の名があるだろうか。
いたる所にカフェや雑貨を扱う店などがひしめき合う、今やおしゃれタウンの代名詞的な存在らしいこの街を、もちろん知らなかったわけではないけれど、その圧倒的なネームバリューゆえに探す前から予算オーバーを決めつけ、 候補にすらあげていなかったのです。
ふらりと駅を降りて、ただ足の向くままに歩いていました。
日も暮れて、ふと、通り過ぎようとした不動産屋の店頭に設置された大きなタッチパネルが気になり、気の向くままに物件を眺めていた時、突然、広さ良し、駅からの距離良しのこの物件が目に飛び込んできたのです。ハッとして家賃欄に目をやれば、そこには予算オーバーの数字が。「目に飛び込んできといて予算オーバーとは何だ。」最初はそう思いましたが、それが次第に「予算とは何だ。」に変化し、気がつけば、為せばなる為さねば云々、と呪文のように唱えながら、静かに予算修正されていくのでした。
人が人生を行く上で、決して口ずさんではいけないフレーズがあります。それは、
「どうせ自分には無理に決まっている。」
まぁ、そんなに大げさに考えたわけではありませんが、駅周辺を少し歩いただけで、その洗練された街並みは、駆け出しの靴工房の立地としては勿体ないくらいに思えましたし、東横線の特急が停まってくれるこの駅なら、横浜からのアクセスも比較的都合が良いだろうと思い、多少の苦労は承知の上で、この物件の詳細について訊ねるべく、閉店時間を過ぎたその不動産屋の中に入って行きました。
つづきは次回。